村岡研究室
酸化的タンパク質フォールディングを促進する分子の開発
タンパク質は、多数のアミノ酸が連結して作られたポリペプチドです。
ポリペプチド鎖が、天然構造と呼ばれる立体構造へ折りたたまる過程がフォールディングであり、これによりタンパク質分子は本来の生化学的機能、活性を獲得します。
ここでタンパク質は、ミスフォールド構造と呼ばれる非天然構造を形成する場合もあります。
ミスフォールドタンパク質は活性を持たないだけでなく、アミロイド形成などにより様々な疾病の原因にもなっていると考えられています。
近年タンパク質は、抗体医薬などの医薬品としても注目されています。
従って、タンパク質を天然構造へ効率的にフォールディングさせる技術・学理は、生物学にとどまらず、薬学、医学にも関連する重要な研究テーマです。
タンパク質フォールディングは,ポリペプチド鎖内での水素結合や疎水性相互作用など,様々な相互作用が作用しながら進行します。
私達の研究室では、特にジスルフィド結合形成に着目して,フォールディングを促進する低分子化合物の開発を目指しています。
ジスルフィド結合形成を伴うフォールディングは,酸化的タンパク質フォールディングと呼ばれ、膜タンパク質や細胞外分泌タンパク質、医薬品にも用いられる抗体の多くで見られます。
細胞での酸化的タンパク質フォールディングは、Protein Disulfide Isomerase (PDI)などの酸化還元酵素が促進します。
基質となる変性タンパク質に対して、1:1で酵素が結合し、そのフォールディングを進めます。
これまでに、PDIの活性中心にあるチオール/ジスルフィド構造を模倣した低分子化合物が開発され、フォールディング促進機能を持つことが報告されていますが、それらはいずれも基質タンパク質に対して過剰量の添加を要するものでした。
我々は最近、基質タンパク質に対して1当量の添加で、高い効率でフォールディングを進める初めての人工分子pMePySSの開発に成功しました。
従来の化合物が用いられる条件と比べて、1/10以下の添加量で同等の促進効果が見られたことから、既存化合物に比べて10倍以上高い活性を持つことが示されました。
pMePySSは、インスリンのフォールディングに対しても、1当量添加で高い効率を示したことから、医薬品タンパク質の合成にも有用であることが示されています。
この成果は、インスリンや抗体医薬などのタンパク質製剤の合成効率の向上の他、構造異常タンパク質が引き起こすパーキンソン病やアルツハイマー病、2型糖尿病などのミスフォールディング病に対する治療薬の開発にも貢献すると期待されます。(Chemical Science 2023, 2024a, 2024b)